二軸歩行との出会いとこれから

並川耕士

 

 私は競歩を専門に、主にマスターズ陸上で活動している市民ウォーカーです。

 学生時代には陸上運動部に所属し競歩を専門としていましたが、ベスト記録は10000mW53分台、20KmW1時間49分台といった程度でした。卒業後は全く競技から遠ざかっていたのですが、40歳を少し過ぎた頃からマスターズ陸上に参加しています。

 そのような私が二軸歩行と出会い、私なりに歩き方を模索している経過を報告したいと思います。

 私がマスターズ陸上に参加して1年目は5000mW30分も切れませんでしたが、2年目に入る頃からようやく28分台で歩けるようになりました。しかし、3年目に入っても記録は伸びず、それどころか、近畿選手権、東京選手権と2試合連続してロス・オブ・コンタクトで失格となり、「このままの歩き方では未来はないのでは」との不安にかられていました。

 その頃、世界陸上パリ大会の200mで銅メダルを獲得した末續慎吾選手が取り入れたことで「なんば歩き」が話題となっていました。でも当時の私は競歩に取り入れることはできないだろう、と勝手に思い込み、「なんば歩き」については調べもしませんでした。

 しかし、歩き方を変える必要を痛感していた私は、藁をもすがる気持ちで、にわかに「なんば歩き」に興味を持ち始めました。

 「なんば歩き」と「競歩」をキーワードにして、インターネットで検索した結果、ヒットした中に常歩秘宝館がありました。それが、私と二軸歩行との出会いでした。

 しかし、常歩秘宝館で説明されていることをいろいろと試してはみましたが、記録の伸びない日々がしばらく続きました。それが、2005年に小田先生の「スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと」(大修館書店)を読んでからというもの、急激に私の歩きが変化し記録も一気に伸びました。

 とは言え、読みながらも、最初のうちは「着地脚側の腰の進行方向への加速度がプラスの値をとること(p.56)」とともに、「常歩は右足が前に出るとき左腰が前に出る(p.57)」ことがよく理解できませんでした。

 ところが、p.124の「膝を抜く感覚=乗り込みの感覚」、この感覚が実感できることによって世界が一変しました。「右足が前に出るとき左腰が前に出る」ことも「着地脚側の腰の加速度がプラス」であることも実感として理解できたのです。特に、腰が前に滑るように進む感覚が、膝を抜くこと(少し曲げること)よりも私にとっては重要な意味を持ちました(競歩では着地脚の膝は曲げられないということもあります)。

 それまでは、歩くことを「大転子を回転運動の軸とした振り子運動」として捉えていました。しかし、腰が前に滑るように進む感覚から「支持脚の踵を回転運動の軸とした振り子運動」を歩くことと再定義することができました。前者では「いかに足で地面を後ろに蹴るか」がポイントとなりますが、後者では「いかに大転子を前に運ぶか」がポイントとなります。

 このポイントの切り替えによって、5000mWの記録が200510月には27分台に、20064月には26分台に突入しました。

 ここで、支持脚の踵を回転運動の軸と見た場合、踵は左右にあるため、歩くことは二つの軸の振り子運動を交互に繰り返す運動となります。

 一般的には中心軸に対して左右二つの軸を有する歩行を指して二軸歩行と言いますが(一直線歩行に対して二直線歩行という言い方もされています)、左右の踵を二つの軸とする運動という意味を含めて、私は二軸歩行と感じています。

 20069月のマスターズ陸上全日本選手権では優勝こそしたものの不満の残る内容でした。しかし、11月にインドのバンガロールで開催されたアジア大会では納得できる歩きができ、銀メダルを獲得することができました。二軸と出会ってから約2年半、振り返ってみれば、歳を重ねつつもまだまだ進化し続けられるのではないかと感じられるまでになりました。

そこで、これからのことですが、現在、以下のことに取り組んでいます。

@小田先生が擬似二軸として描かれている動作は、本来勧められるものではありません。しかし、擬似二軸動作のように身体を左右に振ると、振った側の腰が非常に前に滑りやすくなる(前向きの加速度が得られる)と感じています。しかし、このままでは重心が支持脚に乗って安定してしまいます。そこで、身体を振った側の腰が前に滑りやすくなる感覚を維持したまま、擬似二軸動作から二軸動作に戻すために、重心を遊脚側に押し出すことを模索しています。

A遊脚は同側の腕とともに外旋させることによって重心を前に動かすことができます。一方で、着地脚側の腕に関しては、次のように感じています。すなわち、着地脚の腰を前に滑らせる時には、同側の腕は外旋したまま前に押し出すイメージ(掌を上にして軽く握った手を前に突く感じ)で、腰の加速度がゼロになった瞬間(あくまでも主観的なものですが)には、外旋から内旋に切り替える感じ(掌を上から下に一瞬でひっくり返す感じ)です。この感覚を信じて、現在、外旋から内旋への切り替えのタイミングを模索しているところです。

 今年2007年はマスターズ陸上世界大会がイタリアで開催されます。欧州のマスターズのレベルは高く、世界大会では5000mW25分台でも入賞できるかどうかのレベルです。5000mW25分台といえば、私にとっては学生時代の記録を塗り替えることに相当します。記録が全てではありませんが、二軸歩行でまだまだ進化したいと思っています。