常歩(なみあし)走歩行とは

 
 このコーナーでは、「二軸理論」での走歩行について話を進めていきます。「常歩事始め」で触れましたように、「二軸理論」は走歩行の原理を考察する中から生まれました。「二軸理論」を基礎とした走歩行を理解し、その動きを修得すれば他の運動への応用も比較的容易であると思われます。


中心軸感覚の走歩行

 まず、中心軸感覚とその走歩行ついて触れておきましょう。概略については、「常歩事始め」をご一読ください。

 日ごろ、身体の軸など考えたことがない人でも、「あなたの身体の軸はどこにありますか」と聞かれたらほとんどの方が頭の上から両足の中心を結ぶ線(軸)を想像するのではないでしょうか。この身体を串刺しにした想像上の線を中心軸といいます。

 なぜ私たちは中心軸を感じるのでしょうか。それは、私たち人間の進化の過程と関係がありそうです。ヒトは四足歩行から二足歩行になったと考えられています。そのとき、歩くことより、まず立つということが優先されたと思われます。歩くことの前に上手に立つことを覚えなければなりません。

立っているときに、私たちの身体の重心は、おへそあたりの体の中にあります。その重心から地面に垂線を下ろし、その交点が両足がつくる支持面の内側にあれば倒れません。そして、最も安定して立つというのは、支持面の真ん中(中心)に垂線が落ちる場合です。私たちは無意識のうちに重心から支持面の真ん中に落とした垂線を感じることになります。これが中心軸です。

つまり、私たちが無意識のうちに感じている中心軸とは動くための感覚ではなく、安定して立つために必要な軸感覚なのです。

 中心軸感覚のまま、走歩行するとどのような動きになるでしょうか。この感覚で体を前へ進めようとすれば、下肢で中心軸(体)を押し出そうとします。つまり、脚で地面を後方に蹴る動きになります。さらに中心軸を保とうとしますから、振り出された足を自分の重心の真下に接地させようとします。このときの骨盤の動きを想像してください。振り出された脚と同側の骨盤(腰)が前方に動くように回転します。この骨盤の回転を補償するために、肩を骨盤とは逆方向に回転させることになります。これが中心軸感覚の走歩行、つまり我々が一般に行っている走歩行です。この走歩行は「常歩事始め」のコーナーに記しましたように、非常にロスが大きい運動と思われます。


二軸理論による走歩行(常歩走歩行)

 さて、二軸理論による走歩行とはどのようなものでしょうか。一言でいえば、それは一直線走歩行でのロスを取り除いた走歩行であるといえます。

 二軸理論による走歩行は、二直線走歩行が基本です。一直線走歩行が骨盤と肩を左右交互にねじりながら足をクロスに入れるのに対して、二直線走歩行は骨盤の幅を保持したままそれぞれの足を直線的に運ぶ方法です。



(学研・6年の科学・2003年10月号より)

 それぞれの足が二直線上を進むことによって、体幹が捻られず足がターンオーバーする基礎が出来上がります。しかし、二直線上を進むだけでは合理的な走歩行にはなりません。

 重要なのは、骨盤の動きです。一直線走歩行での脚と骨盤の動く方向を思い出してください。脚と同側の骨盤はほぼ同方向に動きます。右足が前方に振り出され、左足が着地している間は骨盤の左側(左腰)が後方に動きます。しかし、二軸理論での走歩行では骨盤の動きが異なります。例えば、左足が着地し右足が振り出されるときには骨盤(左腰)も後方に動きますが、途中から骨盤(左腰)が前方へ動きます。つまり、着地足側の骨盤(腰)が途中から前方へ動く、または前方へ動く力が加わるのです。この骨盤の動きによって、着地足が離地した後のターンオーバーが可能になります。しかし、この骨盤の動きも意識してできるものではありません。骨盤の動きを気にしていたら歩くことはできません。

 そこで重要な役割をするのが股関節なのです。股関節が外旋する、または外旋力が働くことにより、この骨盤の動きが誘導されることがわかってきました。股関節が外旋するというのは股関節が膝と足先が外側を向くように動くことをいいます。

股関節の外旋または外旋力を働かせることによって、体幹を捻らない走歩行が可能になります。それでは、どのようにすれば股関節の外旋(力)が働くようになるのでしょう。それには、股関節の柔軟性を高めることは勿論ですが、立位(立った姿勢)でつま先と膝が多少外側を向くことが大切なのです。この状態を股関節外旋位といいます。着地脚の股関節が外旋位を保つことによって、股関節の機能を十分働かせることができます。さらに、踵から小指にかけて足圧が抜けるようなイメージで歩きます。このことにより、膝関節や足関節(足首の関節)で蹴るのではなく、左右の股関節を旋回軸(ピボット軸)とした外旋力を活かした走歩行が生み出され、股関節を動きの起点としたターンオーバーの脚の動きがあらわれます。

(股関節外旋の動き→アニメーションはこちら・股関節の外旋ストレッチ)

 「二軸理論」による走歩行での下肢・骨盤・股関節の動きと機能についておおよそ理解していただけたと思います。さらに、合理的な走歩行にするためには何が必要でしょうか。二軸走歩行で重要となるのが重心の移動なのです。左右の股関節を動きの起点としますので、重心をスムーズに左右に移し変える必要があるのです。この重心の移動と体を貫く左右の軸感覚を生み出すのが肩甲骨の動きです。

 近頃、肩甲骨の動きに注目が集まっていますが、肩甲骨は上肢を動かすときに重要であることはご存知だろうと思います。私たちの肋骨は鳥かごのような形をしています。その肋骨の上に筋肉がのり、さらにその上に肩甲骨・肩関節・鎖骨などが浮いているわけです。鎖骨だけが胸鎖関節で胸骨につながっています。肩甲骨はその肋骨の上をすべるように動きます。子どものときは肩甲骨はよく動くのですが、成長とともに肩甲骨周辺の柔軟性がなくなり動かなくなる傾向にあります。肩甲骨の動きはとても個人差があります。二軸理論の走歩行では、骨盤の動きと股関節の外旋、さらにこの肩甲骨の動きによるスムーズな重心移動によって成り立っています。それぞれの細かい動きは「常歩の身体操作」のコーナーで取り扱うとして、実際に歩いてみましょう。