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先日(2003年8月)、小田先生より、競歩に常歩(なみあし)の動きを取り入れることによって、全日本インカレ(横浜陸上競技場、7月6日開催)、10000m競歩で優勝し、オリンピック強化指定選手に認定され、さらに、アジア陸上競技選手権大会の日本代表に選出された杉本明洋君に動画をアップすることを承諾していただいたとの連絡を受けました。
ビデオを送っていただきましたが、そのビデオに見入ってしまうとともに非常に感動しました。感動したのは、彼のこの3年間の変化(進化)がすさまじいものであったからです。僭越ながら多少の説明を加えさせていただきながら杉本君の動画をご紹介したいと思います。
まず、彼が大学一年生の頃の歩きを見ていただきましょう。
動画(2000年8月)
これは、彼がまだ5000mを25分台で歩いていた頃のものです。彼自身、「最後まで、とにかく地面を押していた」というように、着地足をしっかりと後方へ踏んで歩いていることがわかります。腰の動きを見ますと、脚の動く方向と同方向に腰が大きく動いているのが見て取れます。さらに、骨盤の傾きと腕の振りにも注目してください。腰を前に押し出すようにして骨盤を後傾させています。また、腕も「前後」に一生懸命振っていることがわかります。
次の動画は昨年(3年生)秋のものです。先の動画から、常歩(なみあし)を取り入れて約2年間が経過しています。
動画(2002年11月)
この頃は、5000mは19分台、10000mは40分台に突入しています。まず、最も顕著なのは骨盤の傾きです。彼は、「上半身を前傾姿勢にした結果、偶然にも地面を蹴らない歩きができた」と語っているのですが、骨盤の前傾に注目する必要があります。この骨盤の前傾は「ターンオーバー」の重要な要素です。2年前の歩きに比べると、離地した脚が前方へ鋭く振り込まれているのがわかります。
それでは、全日本インカレ優勝時の歩きを見ていただきましょう。
動画(2003年7月)
このレース、常に2位に入賞した選手と競っていましたので、杉本君一人の映像を抜くことができませんでした。昨年(2002年)の歩きと比べると、さらにターンオーバーが鋭くなっています。全レースを拝見しますと、一人だけ異質な歩きをしています。着地脚が離地した後の膝の抜き(前方への送り込み)が他の選手と比べて著しく速いのです。
特に、この一年間の変化は肩甲骨の柔軟性にみられます。肩甲骨がスムーズに動いています。側面からの動画でわかりにくいのですが、肩甲骨が外側に滑り落ちた状態で動いているものと思われます。この肩甲骨が外側に滑り落ち、スムーズに動ける状態を、私たちは肩甲骨が「外放位」にあるといっています。この肩甲骨の動きによって素早い重心移動が可能になったと思われます。
もうすこし詳細に見ていきましょう。インカレ時の歩きは、脚のターンオーバーもすばらしいですが、最も目につくのは、全体の柔らかな動きです。その柔らかさは、肩甲骨を中心とした肩付近の緩みに原因があります。カメラの位置(高さ)が多少異なりますが、2000年、2002年の歩きでは、肩(肩甲骨)が上方へつられた状態になっています。ところが、インカレ時は肩が下がり、「なで肩」のように見えます。同一人物なのに、首が長くなったように見えませんか?。
そして、画像から最もわかるのは、頭部の傾きです。以前の歩きでは、あごを引き「胸鎖関節」あたりが緊張しているようすがわかります。ところが、インカレ時の歩きでは、顎が多少前に出て頭部がまっすぐに乗っています。
これらから、歩行時の彼の肩の動きをよく観察してみますと、2000年の歩きでは肩はほとんど前後の動きしかしていません。2002年のものは多少上下への動きがありますが、2000年の動きとそれほど変わりません。ところが、2003年のインカレの肩の動きは左右の肩甲骨の上下の動きを使って見事に重心移動しているように見えます。
さらに、腕の振りに注目してください。特に前方へ振りこまれた肘の位置がポイントです。2003年と以前の歩きを比べてください。2003年の肘の位置は常に体側後方にあることがわかります。前方へ振り出された前腕は鋭くぱっと上方へ振りあげられ、肘は体側より前方へ位置することはありません。肩甲骨の「外放」により、腕の鋭いターンオーバーが可能となるのです。肩甲骨が「外放」せず体の中心(背骨の方)に引き上げられた状態にあると、中心軸でねじる動きになってしまいます。肩甲骨の「外放」が、腕のターンオーバーを可能にし、さらに脚のターンオーバーを加速させることになります。さらに、インカレ時の彼の歩きを見ると、肩甲骨は柔らかく動いていますが、肩がほとんど回転していないことがわかります。まさしく、体幹をねじらない歩きが実現しているのです。肩はスムーズに動いているのに、脊椎を中心にローテーションしていないのです。肩甲骨が動くということと、肩がローテーションすることは、全く別の動きであることがわかります。
また、骨盤の動きにも注目しましょう。中心軸感覚の走歩行では、着地脚側の腰(脇腹)は、脚の動きとほぼ同時に同方向に動きますが、常歩(なみあし)では、着地脚側の腰(脇腹)が途中から鋭く前方へ動きます。明確にその動きがあらわれなくても、前方への動きが加わりますから、骨盤が回転(ローテーション)する動きがなくなります。ほぼ、骨盤が固定されたように見えます。しかし、これは骨盤を固めてしまっているのではなく、股関節を外旋させ脚と腰を反対側にねじることによって固定されたように見えるのです。常歩(なみあし)について、体幹を固めてねじらないというイメージを持つ方が多いのですが、そうではなく、股関節と肩甲骨を十分操作して、結果として体幹がまっすぐ前方へ押し出されるのです。よって、ロボットのように体幹をねじらない感覚(イメージ)とは異なります。
杉本君の成功は決して常歩(なみあし)だけのものではありませんが、3年間の歩きを拝見しますと、改めて常歩(なみあし)の威力に驚かされます。彼は大学入学時は、無名の競技者でした。その彼が、このような進化を遂げたことには、彼には失礼ですが「奇跡」といっても過言ではないと思います。
今後、常歩(なみあし)によって多くのアスリートに劇的な変化がおとずれそうな予感がします。
この度、動画アップを承諾していただきました杉本君には心よりお礼を申し上げたいと思います。ありがとございました。
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