気と呼吸

 常歩(なみあし)の剣道を実践するにあたって、小田伸午・小山田良治両氏との出会いとともに、私にはもう一つの神秘的な出会いがありました。

 平成14年3月、本校のある先生の紹介でF先生の病院を訪ねました。先生は年齢は80歳半ば、福岡市内の病院で患者さんの治療に当たられていました。私も聴力の低下や体調不良のために紹介していただいたのです。最初の3ヶ月は、体質改善の注射や漢方薬を合わせていただきました。先生は不思議な方で、オーリングで漢方を処方されたり、気で患者さんを治療したりされていました。

 私は、元々そのようなことには疑い深い方なのですが、周囲の持病や難病の方々が治るすがたを見て先生の不思議な力を認めざるをえませんでした。

 治療を受けて4ヶ月が過ぎた頃に、私ははじめて先生に剣道の話をしました。
「先生、剣道には何が大切ですか?」
「本当の剣道を目指すなら気功をしなさい」
「・・・・気功ですか?」
「気の勉強をしなければ本物にはなりませんよ・・週に一度、通ってみませんか」

 このような会話だったと記憶しています。私は先生に弟子入りし、週一度通って「気」の勉強をさせていただくようになりました。

 いくつかの気功の方法を教えていただき、続けました。先生の病院に通っても、特別「気功」を実践するわけではありません。一時間ほど先生と色々な話をします。

 こんな質問をしたこともあります。

「先生、剣道で攻めて打つというのは間違いですね」
「そうです」
「心身を抜いて、自分をなくして相手に対したらいいんですね」
「そうです。自分がなくなればいいんですよ」

 「気功」をはじめて、2ヶ月ほど経ってから不思議な現象が現われました。「気功」の稽古中、少しずつ自分の身体が動くのです。先生にお話しすると、「もっと動くようになりますよ」といわれました。それから、3ヶ月ほどすると「気功」を始めるとすぐに自分の身体が色々な動作をするようになりました。自分でとめようを思えばとめれますが、そうでなければ自分の意志とは関係なく身体が動き続けます。これは、自発動と言うのだそうです。

 この頃から、自分の剣道の合理的な動きが明確になってきました。そして、様々な変化がありました。

 私もおぼろげながら「気」は概念ではなく、実体であることがわかってきました。そして、「気」の操作はどうも「呼吸」によるもののようです。

 2年間、先生のところに通い、様々なことを教えていただきました。現在は、通っておりません。平成16年4月、先生は亡くなられました。

 合理的身体操作を学ぶことによって、「気」というような(無)意識の世界が見えてくるのだと思います。身体操作を追及する目的は、身体を忘れ去ることなのかもしれません。先生に教えていただいた「気功」を実践しながら私も急ぐことなく進みたいと思います。